土曜日はいつも通りの梅田ガーデンシネマへ「埋もれ木」という、公開前から興味を持っていた映画を見に行った。多分初めて1人で映画を見に行ったよ。元々そんなに映画好きでもないし、たとえ最近見てみたいと思うものがあっても大抵友達も同じ気持ちだったりして一緒に行ってたから。でもなんか大阪来てから行く映画館っていつも梅田ガーデンシネマで、他には行ったことないくらいで、だからなんか慣れてた。なんもドキドキ感とかなくて、ちょっと寂しくなった。
なぜ公開前から興味を持っていたかというと、それはネット上でポスターを見て、そのサイズは随分縮小されたものだったにも関わらず、とても目を惹かれたからだった。なんとなくふいに目に入っただけなのに、黒を背景とした中に浮かび上がる黄緑や橙、明かりにふわっと引き込まれた。それからオフィシャルサイトなどを見てみたら、浅野忠信岸辺一徳などが出演していることなどなどを知り見てみたいなぁと思っていた。
始まる10分まえくらいに着くと、隣のペンギンの映画は次の回ももう埋まりますなどというアナウンスが流れている中、こちらは60人くらいの集まりで、しかも年齢層が中々高い。監督の年齢が59歳だからかな。小栗康平監督。山田洋二さんからもこの映画にコメントが寄せられているし、巨匠とも言われているみたいだけど、私は全く名をしらない人だった。デビューが81年で90年にカンヌでグランプリを取っていて、埋もれ木は9年ぶりの作品とのこと。まぁ知らなくてもそんなに不思議でもない。
事前に分かりにくい映画みたいなことはネットを通して知っていた。ストーリーがないだとか、筋がないとか、ファンタジーだとか。バラバラに交わりを持たずに進むということ。まぁだからこそ余計に惹かれたんだが。とりあえず一応そのことは頭に置いて見に行ったということは、この映画を見るにあたって置いておきたいところ。


実際見てみると、↑のような意識を持っていったにも関わらず、難解というか、今までに見たことのないもので、見終わるとなんとも言葉に出来ないものが心中に残された。そして同時にこの映画に何か自分の納まりを感じた。もっと、もっと深くこの映画に関わりを持ちたいと、この映画を見たいと思った。そうして思わずパンフレットを購入した。滅多に買わないのになぁ。それはつまり、1度見ただけでは分からないことが多すぎた。でも完璧何も分からなかったわけじゃ、感じなかったわけじゃない。凄く見えない形として残されたからこそ、もやもやとして残ったからこそ、それを形にして見たいと思ったからこそ。
パンフレットの1ページ目に小栗監督の記述がある。

画像は感覚に訴える。言葉と比べればもともと理論性を優先していない。その分だけ、見る人の印象といったところへまぎれて、なにがいいのか悪いのかを、私たちは確かめあえないでいる。

こう始まる言葉に、とっさに、あ…この人好きかもしれないと思った。そしてまた、最近写真のことについて本を読んだりして触れていて、まだ自分で言葉には出来ないけど感覚として理解出来ていたところとの合致さを覚えた。そうしたら余計おもしろくなってきた。
この映画はファンタジーだ。監督曰く、見えないものと見ようとしているものがないまぜになっている。目の前にある現実を、硬いものを、変わることが出来るやわらかいものとして捉えなおしてみたいと構想された。その映像世界は、とても美しい。ただファンタジーなんじゃなくて、ただ美しいんじゃない。見たことのないものじゃなくて、見ているものの美しさを存分に見せてくれるようなものというか…?自分でもこうゆうものの話し方はいまいち分かりにくくなるんだが…。
HDカメラを使って撮影されたというこの映画を見て一番驚いたのは、カット数が少ないし、引いて撮ってばかりいる画面だった。そして明と暗の境というか、特に暗い場面でのファンタジーさだった。とにかく引いてばかり撮影されている画面。その枠内に見る情景は凄く新鮮だった。その一場面ごとに美しさを覚えた。本当に今までに見たことのない写し方でいちいち驚いた。ものの見方として、新鮮すぎた。引いているとつまり出演者の顔はあまりよく見えない。お陰で、7千人の中から選ばれたという主役の女の子の顔も、その友達の男の子の顔も、パンフレットを見るまでとてもあやふやなものだった。それぞれの役者さんの存在感はあるものの、顔が見えにくいというのは、私には余計に夢のような心地が与えられた。また、夜や薄暗い室内でのシーンが本当におもしろあった。そして一番美しかった。特に夜の森の中での少女たちが飛び跳ねているシーンや、木々を移したシーンは、凄く完成された世界で絶句ものだと思った。これはHDカメラだからこその世界なのか。だから、そのシーンから日中のシーンに移り変わるときの衝撃さを強く感じたし、おもしろいと思った。
この映画には目を引くものが沢山散りばめられている。それらは繋がりがないようで、あるように次々登場してくる。どれもが不思議にも思える。けれど、最終的に繋がりを見せてくる全てによって、途中まではやや不可解だったものが、ぐいっと掴まれてその世界に魅せられてしまった。最後のお祭りのシーンはすごかったなぁ。色彩がとても華やか。なんでも、琳派を参考にしているところがこの映画にはあるらしい。おぉなるほどぉ…すごい。


とにかく、パンフレットを購入し、それを読み、自分の中で色々思いをめぐらせ考えていると、ますますこの映画に小栗監督が描こうとしていることに興味が沸いていく。私は1度見ただけでは全然物足りていない。ってゆうか見てても自分の中でうまく繋げられなかったし。あともう1度は見ないと、よく理解出来ないような気がする。
小栗監督にはとても惹かれている。パンフレット買ったよかったな。言っていること全てに納得するんでもないんだけど(なんかちょっと強すぎて)、人としてなんかいいなぁ好きだなぁ。学校図書館に先月発売されたばかりのDVD BOXがあることが判明、ようし見るぞ!そしてやるな学校!
ちなみに一番興味深かったのは小学校の教室の黒板にに描かれた埋もれ木の解説の絵だった。あれ、なんか、すごい…。素晴らしい…。あの黒板の図と解説によってあの教室の空気が一気にどばぁっと作られている木がした。凄く度肝を抜かれた。ドキッ。あと、魚喃キリコのイラストで始まるということ!!凄くビックリしたけど、凄く良かった!!しかもそのイラストがそのままパンフレットに載っててすげー得した気分になった。

“埋もれ木”とは埋没林ともいわれるもので、火山噴火によって立ち木のまま地中に埋もれた古代の森である。

受け入れられるられないは極端に分かれるかもしれないけど、とても良い作品だと私は思う。