1月22日は新宿ピットインへ、広瀬淳二トリオを見に行った。
[MEMBERS]広瀬淳二(Sax)大友良英(G)芳垣安洋(Ds)というトリオということで、めちゃくちゃ楽しみにして行った。いや全然予測もないんだけれど、きっとかっこいいだろうと。今年最初のライブ。


当てのない予想は外れることなく、めちゃくちゃかっこよかった!!!なんだか、ひさしぶりに、美しいという言葉を実感したんだ。とてもシンプルにその言葉がたちあがることを感じた。まるで高い山の頂のような情景と、その孤高で何物にも代えがたいそこにそびえ立つ存在感、鋭い美しさを感じた。たぶんここで私が山の頂をイメージとして浮かべたのは、漫画『岳』の影響があると思うんだけど、この漫画では山とそこにかかわっていく人間模様が描かれているが、毎回、山というものに魅せられてしまう人間や山というものが人に与えるなにかだったりというのは山の厳しさや強さや広大さを実体験したことのない私でもぐんぐんイメージが湧かされて魅了されていて、すごく魅力あるものとして私のなかに山という、特に冬の雪がはりつめた山それ自体や、そのきっと味わったものにしかわからないんであろう空間は体験したことがないからこそ余計にイメージが膨らんでいる対象だから、この3人の音を聞いた時、未知のものであるが、こころをぐいっと触覚的に引っ張られてしまう共通項が生まれたのは、自分の中で面白い出来事だった。というのが1stでの強い印象。3曲やったのだけど、1曲目のはじまりのしばらくは芳垣さんは木琴バチを上下逆さにしてのプレイ(つまりプラスチック側でたたく)。これがすんごくいいんだな!ひとつひとつの音は短くしか残らないから手数の多さがより一層際立って来るし、でも軽やかな音になってとても透き通った水流が見えてくるようで。また、全体通してシンバルの扱いが様々だったのが印象深い。前の方で見れたからすごく面白かった。おっきなシンバルが2つくらいあって、他にさらに2つあって、時に変更があり、魅力的なシンバルの音がひびいた。

2stでは全体の音の重さや流れがより色濃くなった感じがした。それまでの休憩30分という空白がさっと瞬時に消え失せた。真剣に真剣に集中して音を聴いた。聴くことにこんなにも集中していると心地よすぎな感じになって逆に意識がゆらゆらととんでしまうという罠…。でもずっと考えいた、こんな音を聞いていたら考えざるをえないという具合に。

1stの1曲目は各プレイヤーが極わずかな、かすかな音を出し始め、互いの音に触れ絡まるような、またはなれるでもあるような、そして徐々に徐々に音数が高まり厚くなりしかし決して放出するんでなくめいいっぱいに内包するような温度の熱さで展開していく様はすっごくかっこよかった。そうすると自然と考えてしまった、はてや音とはなんぞや?と。特に、広瀬さんのテナーサックスを聴いて思った。広瀬さんの出す音はとても美しい。じっと耳を聴きたてて、まるで街なかの雑踏のなかで聞こえているようなノイズのような様々な特殊な音や、瞬間的に生まれてくる感情のすべてをぶちこんだように噴き出す音の連続、そして色っぽいフレーズ。音、のその前に、息や空気や空間を感じさせられた。そもそも、音がこんなにもそれらと繋がっていることに驚いたのだ。

広瀬さんを見るのはじつは初めてではなく、遡ることちょうど約6年前ほどに、NHK-FMライブビートでのROVO feat 広瀬淳二という収録で見ている。しかしそのときの私といえばつまりROVO見るのだって2回目だった、つまり芳垣さん見るのだって2回目だったんだから、年齢もなんもかも若いわー。でもその日の収録のことはよく覚えてる。一人で行った、2月だったから、外で30分待ってるのが寒くって、でもなんかきもち良くって、すっごくどきどきしながら演奏が始まるのを待っていて、とても緊張にまみれた演奏を感じた。この、16.7歳のころに見聞きした音楽が今の自分にとても重要になってるとは以前からつくづく思っているのだけど、まさかここにきて広瀬さんと芳垣さんの演奏を見る自分がいることになるとはーという感じ。広瀬さんは演奏リハビリ中(?)とかってのことだし。それに今回行くキッカケはdoubtmusicの沼田さん(id:doubtwayoflife)がこのトリオの1回目の演奏をこうゆうのこそ女性に聴いてもらいみたいなこと書かれてたので、それに誘われたのもある。そしてまた、大友さん(id:otomojamjam)もライブ前日に広瀬さんのことをこんな風に紹介していた。

明日22日は、わたしがもっとも敬愛するサックス奏者、日本でおそらくは最初にフリージャズとは一線を画す即興演奏をサックスソロで今から30年近くも前に実践したパイオニアの広瀬淳二の復活ライブがPITINNで行われます。

もうだれも知らないとおもうけど、かつて80年代に彼が出したサックスソロのアナログ盤はわたしにとっては本当に重要なアルバム。日本ではだれひとりとしてこのアルバムを紹介したり評価した批評家がいなかったけどね。情念を込めたり、ある音楽のジャンルのアイデンティティを込めるのではなく、サックスという楽器を、息を使って空気で振動させるただの金属の管のマシーンとしてあつかった日本で最初の音楽。

自分自身のやってることを言葉や作曲という方法でわかりやすく説明するようなことは一切せずに、ひたすらサックスと自作のノイズ楽器で即興だけをやりつづけてきた広瀬さんをオレは心から尊敬してる。

今から25年まえ、まったくやる場所の無かったオレに、突然電話をしてきて一緒にやろうよ・・・ってさそってくれた広瀬さんが、昨年、また突然電話をしてきました。
「サックスでフリージャズがやりたくなってさあ、手伝ってくれないかなあ」
広瀬さんが帰ってくる! もちろんオレの答えはYES以外にあるはずもない。GROUND-ZEROの最初期にものすごい音と強烈なスピードで即興サックスを演奏していたのが広瀬さんだ。


鋭い頂のような美しさが際立って思い返されるライブだった。




ここからは余談。7時半の10分前くらいかにピットインに着くというとき、まさにピットインのビルの入口の所で(写真の電光板が置いてあるとこ)、わたしのだいすきな芳垣さんに一対一ですすすすすすれ違ってしまった。人影が見えて、あ、人が出てくるなと思って、ほんで数歩進んでなんとなくその人を見上げたら、ちょーう眼光鋭い背のおっきいフードにふわふわのついたコートを着たビニール傘をさして外に出てくっていう芳垣兄貴とガツンと眼がバチヂヂとあってしまったわたし。あーた、もう、ちょうどきゅうにびっくりですよ、むねきゅんですよ。どっひゃあああああああと冷や汗というかなんというかなんなのこれーーーと顔がどうにも変形した気分だった。いやこれまでにも超至近距離はあるけど、ちょーすんごく突然であり、暗闇であり、雨にぬれた新宿であり、たまたま本当に眼がバチチとあい、これだけで来たかいがあったわ…とおもってしまった…。ううう、芳垣さんかっこよすぎるぜ。その後開場してから帰って来たとこも見た。ビニール袋もってた。かわいい。